「で、何だよ。これは」
「うむ。私もどうしようか悩んでいるところだ」
 高級マンションの一室。広いリビングの一角で、積み上げられた色とりどりの箱を目の前にして、腕を組む二人の男がそれぞれ呟いた。

 お歳暮


「これ、全部UGN関係の奴らからかな」
「いや、そうでもない……と思うが」
 ひとつ箱を取り上げて呟く少年――高崎隼人の言葉に、このマンションの住人こと、藤崎弦一は首をひねる。
 季節は冬。確かに年の瀬も近づき、ご近所さんの間ではお世話になったからと贈り物をいただいたり贈ったりが繰り返されるわけだが、まさかこの二人にも回ってくるとは思っていなかったのだ。
「こっちは本部から……か。うわ、高そうなハム」
 さっそく箱を開けて声を上げる隼人に、藤崎も釣られて別の箱を開ける。中から出てきたのは、年代もののブランデーだった。
「――これは、私一人で消費しろというのだろうか」
「そういうことだろ。俺未成年だし。あ、こっちは洗剤だ」
「誰からだ?」
「んーと、この下の人からだ」
 隼人がひらひらさせた送り状の名前は、確かにこのマンションの階下の住人の名前だ。そういえば、親戚と偽って居候している彼の面倒をよく見てくれていることを思い出した。
「やりぃ。洗剤しばらく買い足さなくて済む」
「……考え方が庶民的だな。君は」
「誰かさんのせいで一回にシーツ何枚洗う羽目になってるか、ご存知ですか」
 じっとりした目で言う隼人をあさっての方向でさらりと無視してから、また新しく箱を開ける。今度は、インスタントコーヒーの詰め合わせだ。
「こちらは……鳴島市支部からか」
「へぇ。あっち、立て直したのか」
「いや、聞いた話だと――喫茶店を併設しているとか」
「……喫茶店が何でレギュラーコーヒーじゃないんだ?」
「それは……私も知らないが」
 深く考えないほうがよさそうだ。結論付ける横で、今度は隼人がうれしそうな声を上げた。
「あ、うちの支部長からだ」
「ほう。大宙支部長からか。中身は?」
「商品券」
 ほら、と目の前にかざしたそれは、確かに有名なクレジット会社が発行している商品券だ。ざっと見ただけでも、数万円分はあるだろう。
「こういうものの方が助かるな。食べるものだと、お返しに悩む」
「確かに。――こっちは、アキバ支部から……」
 言いかけた隼人の表情が固まった。何事かと覗き込むと、箱には一着のベストやスラックスが、きれいにプレスされて収まっている。
「……『ぜひ、藤崎さんもお願いします♪』――結希店長、やってくれるぜ」
 腹を抱え、げらげらと笑い転げる隼人を一瞥し、ふと藤崎の視線がある一点で止まった。小ぶりできれいにラッピングが施された箱は、ほかの物よりも幾分か小さい。箱の送り状には『電子機器』とある。
「……電子機器? それってどんな……」
 びりびりと器用に包装紙を破り、箱を開けて――硬直した。
 中に入っているのは、小さな箱。ただし、これと同じようなものを、自分の寝室にはいつも常備してあるはずだ。さらに、やはり自分の寝室で見かける少し大きな瓶がひとつに、小さなチューブの軟膏らしいものが二つばかり。ご丁寧に、同封されていたメッセージカードには『楽しい夜のために』などとある。
「――誰だ! こんなもの送ってきやがったのは!?」
 同じように覗き込んで、真っ赤な顔でマジ切れした隼人が、びりびりとカードをひっちゃぶきながら声を荒げる。
 平静を装って送り状の名前を確認して、絶句した。
「……誰だよ」
「……霧谷支部長」

 ――数日後。
「最近、藤崎さんがよそよそしいんです」
 UGN日本支部長、霧谷雄吾がさめざめと泣きながら部下に漏らしたのはいうまでもない。

Information :
霧谷さんは隼人の幸せを祈っているのです(本当かよ
 実はオリジン二次はこれが初でした。凄い勢いでお笑いの方向に。